交通事故の加害者となり、自賠責保険の加害者請求を検討していませんか? 結論から言うと、高額な立て替え負担や煩雑な手続きなど、加害者請求には慎重になるべき5つの大きなデメリットが存在します。

この記事で分かること

加害者請求のデメリット全てと、あなたが本当に加害者請求をすべきか見極めるポイントが分かります。

後悔しないために知るべき全知識を、専門家の視点から徹底的に解説します。加害者請求を考えているなら最後までお読み下さい。

そもそも自賠責保険の加害者請求とは?

交通事故の加害者になってしまった場合、被害者の方への損害賠償は誠意をもって行うべき責任があります。その際、加害者が利用できる制度の一つに「加害者請求」があります。しかし、この制度は一般的にあまり知られておらず、どのようなものか分からない方も多いでしょう。

この章では、自賠責保険の加害者請求がどのような制度なのか、基本的な仕組みから分かりやすく解説します。

加害者が立て替えた賠償金を自賠責保険に請求する制度

加害者請求とは、交通事故の加害者が、被害者に支払った治療費や慰謝料などの損害賠償金を、後から自身の加入する自賠責保険会社に請求する制度のことです

通常、交通事故の賠償金は、加害者が加入する保険会社(任意保険や自賠責保険)から被害者へ直接支払われるのが一般的で、これを「一括対応」といいます。しかし、何らかの事情で加害者が先に自己資金で賠償金を支払い、その立て替えた分を自賠責保険の補償範囲内で取り戻すのが「加害者請求」の仕組みです。

この制度は、自動車損害賠償保障法第15条で定められている加害者の権利です。迅速な被害者救済を促す目的もあり、加害者が賠償金を支払った場合に、その負担を補うために設けられています。
(参考:国土交通省 自賠責保険ポータルサイト

加害者請求と被害者請求の違い

自賠責保険への請求方法には、「加害者請求」の他に「被害者請求」があります。両者は請求する人が異なる、全く別の手続きです。その違いを理解しておくことが重要です。

加害者請求と被害者請求の主な違いを、以下の表にまとめました。

項目加害者請求被害者請求
請求する人加害者被害者
請求の前提加害者が被害者へ
損害賠償金を支払った後
示談成立前でも
損害が確定すれば請求可能
請求の目的立て替えた賠償金の回収損害賠償金の直接支払いを受ける
請求先加害車両が加入している自賠責保険会社

このように、誰が、どのタイミングで請求するのかが大きな違いです。一般的には、被害者自身が手続きを行う「被害者請求」や、加害者が加入している任意保険会社が示談交渉から保険金の支払いまで一括して対応する「一括対応」がほとんどです。

そのため、加害者が自ら自賠責保険に請求する「加害者請求」は、任意保険に加入していない場合など、限られた状況で利用されるケースが多いといえるでしょう。

自賠責保険の加害者請求 5つのデメリットを徹底解説

加害者請求は、交通事故の加害者が被害者に支払った賠償金を、後から自賠責保険に請求できる制度です。しかし、この制度を利用するにはいくつかの大きなデメリットが存在します。

加害者請求 5つのデメリット
  1. 被害者への賠償金を一時的に全額自己負担する必要がある
  2. 手続きが煩雑で時間と手間がかかる
  3. 立て替えた金額が全額支払われるとは限らない
  4. 被害者の協力が得られず手続きが難航するケースがある
  5. 請求権には3年の時効がある

安易に手続きを進めて「こんなはずではなかった」と後悔しないために、5つのデメリットを一つずつ詳しく見ていきましょう。

デメリット1 被害者への賠償金を一時的に全額自己負担する必要がある

加害者請求を行うための大前提は、「加害者が被害者に対して、すでに損害賠償金を支払っていること」です。つまり、示談などで決定した賠償金(治療費、休業損害、慰謝料など)を、まずは加害者自身のお金で全額立て替えなければなりません

事故の規模によっては賠償金が数十万円から数百万円と高額になるケースも少なくありません。そのまとまった金額をすぐに用意できない場合、加害者請求という選択肢をとること自体が困難になります。この一時的な金銭的負担が、加害者請求における最大のデメリットと言えるでしょう。

デメリット2 手続きが煩雑で時間と手間がかかる

加害者請求では、請求に必要な書類をすべて加害者自身で集め、作成する必要があります。例えば、以下のような書類の準備が必要です。

  • 保険金支払請求書
  • 交通事故証明書
  • 事故発生状況報告書
  • 被害者に賠償金を支払ったことを証明する書類(領収書など)
  • 被害者の診断書や診療報酬明細書
  • 被害者の印鑑証明書

特に、被害者の診断書や休業損害を証明する書類などは、被害者本人やその勤務先、病院などに依頼して取り寄せる必要があります。これらの手続きは非常に手間がかかり、すべての書類が揃うまでに多くの時間を要する可能性があります。

デメリット3 立て替えた金額が全額支払われるとは限らない

苦労して賠償金を立て替え、書類を準備しても、支払った金額が全額戻ってくるとは限りません。これには主に2つの理由があります。

自賠責保険の支払限度額

自賠責保険は、被害者救済を目的とした最低限の補償を提供する保険です。そのため、損害の種類ごとに支払われる保険金の上限額が定められています。もし、加害者が立て替えた賠償金がこの限度額を超えていた場合、超過した分は支払われません

損害の種類支払限度額(被害者1名あたり)
傷害による損害最高120万円
後遺障害による損害等級に応じて最高4,000万円
死亡による損害最高3,000万円

例えば、治療費や慰謝料などで合計150万円を被害者に支払ったとしても、自賠責保険から支払われるのは上限である120万円までとなります。より詳しい情報は国土交通省のウェブサイトで確認できます。

加害者の重大な過失による減額

事故の原因が加害者の「重大な過失」によるものである場合、自賠責保険金が減額されることがあります。重大な過失とは、無免許運転、酒酔い運転、ひき逃げ、故意による事故などが該当します。

もし重大な過失が認められると、傷害による損害に対する保険金が20%減額されて支払われます。つまり、立て替えた金額からさらに減った金額しか受け取れない可能性があるのです。

デメリット4 被害者の協力が得られず手続きが難航するケースがある

デメリット2で触れたように、加害者請求には被害者の診断書や印鑑証明書など、被害者自身に協力してもらわなければならない書類が数多くあります。

しかし、事故の相手方である加害者からのお願いを、被害者が快く受け入れてくれるとは限りません。感情的な対立から協力を拒否されたり、連絡が取れなくなったりするケースも考えられます。被害者の協力が得られなければ、書類を揃えることができず、請求手続き自体が進まなくなってしまうリスクがあります。

デメリット5 請求権には3年の時効がある

加害者請求を行う権利には「時効」があります。この時効は、加害者が被害者へ損害賠償金を支払った日の翌日から起算して「3年」です。

「後で手続きしよう」と思っているうちに3年が経過してしまうと、時効によって請求する権利そのものが消滅してしまいます。そうなると、たとえ多額の賠償金を立て替えていたとしても、1円も取り戻すことができなくなってしまいます。時効の管理を怠らないよう、十分な注意が必要です。

デメリットを理解した上で加害者請求をすべきか判断するポイント

自賠責保険の加害者請求には、これまで見てきたようにいくつかのデメリットが存在します。しかし、状況によっては加害者請求が有効な手段となることも事実です。ここでは、どのような場合に加害者請求を検討すべきか、そして他にどのような選択肢があるのかを具体的に解説します。

自賠責保険の加害者請求を検討すべき具体的なケース

加害者請求は、特に任意保険に加入していない場合に重要な選択肢となります。被害者への賠償金を自己資金で支払った後、その一部でも回収できる唯一の公的制度だからです。また、任意保険に加入していても、あえて加害者請求を選ぶケースも考えられます。

具体的には、以下のような状況が挙げられます。

加害者請求を検討すべき具体例
  • 任意保険に加入しておらず、賠償金を全額自己負担した場合
  • 任意保険を使うと翌年度以降の保険料が大幅に上がってしまうため、自賠責保険の範囲内で収まる軽微な損害(治療費、休業損害など)について、あえて保険を使わずに自己負担で対応した場合
  • 被害者との示談が成立し賠償金を支払ったものの、被害者が被害者請求の手続きを行わない、または行えない場合

これらのケースでは、一時的な自己負担や手続きの手間といったデメリットを理解した上で、加害者請求を検討する価値があるでしょう。

加害者請求以外の選択肢も知っておこう

加害者請求はあくまで選択肢の一つです。ご自身の状況に合わせて、他の方法と比較検討することが後悔しないための重要なポイントです。以下の表で、それぞれの選択肢のメリットと注意点を整理しました。

選択肢どのような人向けかメリットデメリット・注意点
任意保険会社に任せる任意保険に加入している人示談交渉から支払いまで代行してくれ、手間がかからない。自賠責保険の限度額を超える高額な賠償にも対応できる。保険を使うと等級が下がり、翌年度以降の保険料が上がる。
被害者請求を促す被害者が手続きに協力的な人加害者が賠償金を立て替える必要がなく、金銭的な負担を一時的に回避できる。被害者が手続きを面倒に感じたり、非協力的だったりすると進まない。
弁護士に相談する示談交渉が難航している人、手続きに不安がある人法的な専門家として、交渉や手続きを有利に進めてくれる。精神的な負担が軽減される。弁護士費用がかかる。

これらの選択肢を理解した上で、ご自身の状況に最も適した方法を選びましょう。判断に迷う場合は、安易に自己判断せず、専門家へ相談することをおすすめします

以下で各選択の詳細を解説します。

任意保険会社に任せる

任意保険に加入している場合、最も一般的で負担の少ない方法が、保険会社にすべてを任せることです。物損事故への対応はもちろん、対人事故においても、被害者との示談交渉から賠償金の支払い、そして自賠責保険への請求手続き(求償)まで一括して代行してくれます。

自賠責保険の補償限度額を超える高額な賠償が発生した場合でも、対人賠償保険でカバーされるため安心です。ただし、保険を使うと等級が下がり、翌年度からの保険料が上がることには注意が必要です。

被害者請求を促す

被害者請求は、被害者が直接、加害者の加入する自賠責保険会社に対して損害賠償額を請求する制度です。この方法であれば、加害者は賠償金を一時的に立て替える必要がありません。そのため、加害者側の金銭的な負担を減らすことができます。

ただし、これはあくまで被害者が主体となって手続きを進める制度です。被害者が手続きに協力的でなかったり、そもそも制度を知らなかったりする場合には、この方法を選択することは難しいでしょう。

弁護士に相談する

当事者間での示談交渉がこじれてしまった場合や、過失割合に大きな争いがある場合、手続きが複雑でご自身での対応が困難な場合には、交通事故に詳しい弁護士に相談するのも有効な手段です。

弁護士に依頼すれば、法的な観点から適切な解決策を提案してくれるだけでなく、被害者との交渉や煩雑な書類作成・請求手続きをすべて代行してもらえます。これにより、精神的なストレスや時間的な負担を大幅に軽減できるでしょう。ご自身の加入する任意保険に弁護士費用特約が付帯していれば、費用を気にせず相談・依頼できる場合もあります。

後悔しないために知るべき自賠責保険の加害者請求の全知識

自賠責保険の加害者請求にはデメリットがある一方で、正しく手続きを進めれば、加害者が一時的に負担した賠償金を取り戻せる重要な制度です。ここでは、実際に加害者請求を行う際の手続きの流れや必要書類、よくある質問について、初心者にも分かりやすく解説します。

加害者請求の具体的な手続きと流れ

加害者請求は、一般的に以下のステップで進められます。各ステップで何をするべきかをしっかり把握しておきましょう。

ステップ1 被害者へ損害賠償金を支払う

加害者請求の最も重要な前提は、加害者が被害者に対して損害賠償金を支払済みであることです。まずは被害者と示談交渉を行い、治療費、休業損害、慰謝料などの賠償額を確定させ、支払いを完了させます。

このとき、支払ったことを証明する「示談書」や「領収書」は、後の請求手続きで不可欠な書類となるため、必ず保管しておきましょう。

ステップ2 必要書類を準備する

次に、自賠責保険会社に請求するための書類を準備します。必要書類は多岐にわたり、事故の状況や損害の内容によって異なります。後述する「加害者請求に必要な書類一覧」を参考に、漏れなく収集しましょう

書類に不備があると手続きが遅れる原因になるため、慎重に準備を進めることが大切です。書類の取得方法が分からない場合は、加入している自賠責保険会社に問い合わせるとよいでしょう。

ステップ3 自賠責保険会社へ請求書類を提出する

準備したすべての書類を、ご自身が加入している自賠責保険会社へ提出します。任意保険に加入している場合は、その保険会社の担当者を通じて手続きを進めることも可能です。書類は郵送で提出するのが一般的ですが、提出方法は保険会社にご確認ください。

ステップ4 損害保険料率算出機構による調査

提出された書類は、自賠責保険会社から「損害保険料率算出機構(自賠責損害調査事務所)」という中立・公正な専門機関に送られます。この機関が、事故の状況、損害額の妥当性、因果関係などを客観的に調査し、支払われるべき保険金の額を判断します。

ステップ5 保険金の支払い

損害保険料率算出機構の調査が完了すると、その結果に基づいて自賠責保険会社が支払う保険金額を決定し、加害者が指定した口座に保険金が振り込まれます。

書類提出から支払いまでの期間は、事案の複雑さにもよりますが、おおむね1ヶ月から数ヶ月程度かかるのが一般的です。後遺障害が関係するような複雑なケースでは、さらに時間がかかることもあります。

加害者請求に必要な書類一覧

加害者請求に必要な書類は、損害の内容(傷害・後遺障害・死亡)によって異なります。以下は主な必要書類の一覧です。請求の際には、必ず事前にご自身の保険会社に確認してください。

書類の種類主な書類名入手先・備考
共通して必要な書類①保険金支払請求書(加害者請求用)
②交通事故証明書
③事故発生状況報告書
④損害賠償金の支払いを証明する書類(示談書、領収書など)
⑤請求者の印鑑証明書
①保険会社から取り寄せ
②自動車安全運転センターで取得
③保険会社指定の書式に作成
④示談成立時に作成・受領
⑤市区町村役場で取得
傷害による損害①診療報酬明細書
②診断書
③休業損害証明書
④通院交通費明細書
①②治療を受けた病院から取り寄せ
③勤務先や保険会社の書式で作成
④請求者自身で作成
後遺障害による損害後遺障害診断書症状固定後に医師に作成を依頼します。
死亡による損害①死亡診断書(または死体検案書)
②戸籍謄本(除籍謄本)
①病院または警察から取得
②本籍地の市区町村役場で取得

より詳細な情報や書式のダウンロードについては、支払までの流れと請求方法|国土交通省もご参照ください。

自賠責保険の加害者請求に関するよくある質問

加害者請求を検討するにあたり、多くの方が抱く疑問についてお答えします。

Q
示談が成立していなくても加害者請求はできますか?

A

原則として、加害者請求は被害者との示談が成立し、賠償金の支払いが完了した後に可能となります。なぜなら、支払った損害額を証明する必要があるからです。ただし、示談成立前に治療費などを立て替えて支払った場合、その「内払い」した分についてのみ先に請求することは可能です。

Q
治療費だけでも先に請求することは可能ですか?

A

はい、可能です。被害者の治療が長引き、治療費の立て替え負担が大きくなった場合など、支払いが確定した損害(治療費など)について、その都度請求することができます。これを「内払い請求」と呼びます。最終的な示談が成立する前でも、立て替えた費用の一部を回収できるため、加害者の経済的負担を軽減できます。

Q
加害者請求についてどこに相談すればよいですか?

A

加害者請求の手続きで不明な点があれば、まずはご自身が加入している自賠責保険会社の相談窓口に問い合わせるのが第一歩です。また、被害者との示談交渉が難航している、過失割合に争いがあるなど、法的な問題が絡む場合は、交通事故に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。専門家のアドバイスを受けることで、手続きをスムーズに進め、適切な保険金を受け取れる可能性が高まります。

まとめ

自賠責保険の加害者請求は、加害者が立て替えた賠償金を請求する制度ですが、一時的な全額自己負担や煩雑な手続き、全額が支払われないリスクなど、多くのデメリットが存在します。これらのデメリットを理解せず安易に進めると、かえって負担が増大する可能性があります。

まずはご自身の任意保険会社に相談し、対応を任せるのが基本です。任意保険に未加入などの事情がある場合は、弁護士などの専門家にも相談し、加害者請求が本当に最善の選択肢なのかを慎重に判断しましょう。

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